なぜ小学校で"暴れる子"が増えているのか…子供の自己コントロール力を低下させる「叱れない」という大問題 | ニコニコニュース
※本稿は、榎本博明『勉強ができる子は何が違うのか』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。
■小学生の暴力行為が急増している
忍耐力や協調性が十分に身についていないと、課題の達成に向けて粘り強く頑張り続けたり、周囲の仲間たちとうまくかかわったりすることができないため、学校生活への適応に苦労することになりがちである。そのイライラが攻撃的な言動につながったりする。
嫌なことがあれば気持ちが沈んだり、腹が立ったりするのはだれにもあることだが、そうした負の感情をうまくコントロールできないとき、気持ちが沈んだまま「心が折れた」といって立ち直れなくなったり、堪えることができずにキレたりする。
小学校に入った途端に適応できずに問題を引き起こす生徒が非常に多くなっているが、小学生の暴力行為が急増しているところにも、そうした衝動を和らげるように自分の気持ちを適切にコントロールする力の未発達があらわれている。
文部科学省による2019年度の調査データをみると、教育機関における児童・生徒の暴力行為の発生件数は、7万8787件であった。その内訳をみると、小学校4万3614件、中学校2万8518件、高校6655件となっており、小学校の発生件数が飛び抜けて多いことがわかる。
小学校の発生件数は、中学校の1.5倍、高校の6.5倍となっている(2020年度以降は新型コロナの流行により通学者数の減少という特殊要因があるため、ここでは2019年度までのデータを取り上げる)。
■教育現場で問題になっている「小一プロブレム」
じつは、2011年までは中学校の発生件数が飛び抜けて多く、小学校の発生件数は高校よりはるかに少なかったのである。2012年から小学校での発生件数が増え始め、ついに2013年に高校を抜き、その後も急増が続き、とうとう2018年に中学校を抜き、今や中学校や高校の発生件数をはるかに上回るようになってしまったのである。
自分の思い通りにならないと、つい暴力を振るってしまう。そんな小学生が急増しているのである。それも凄まじい増え方となっている。こうした現状をみれば、子どもたちの自己コントロール力がいかに未発達であるかがわかるだろう。
自己コントロール力の未発達は、暴力にかぎらず、小一プロブレムなどといって、幼稚園から小学校への移行でつまずく子どもが多いことにもあらわれている。授業中に席を立って歩いたり、教室の外に出たりする。あるいは、授業中に騒いだり、暴れたり、注意する先生に暴力を振るったり、暴言を吐いたりする。このように遊び中心の幼稚園生活から学び中心の小学校生活への移行につまずき、不適応行動に走ってしまうのも、自己コントロール力がうまく機能していないことを示している。
東京学芸大学「小一プロブレム」研究推進プロジェクトにおける調査では、小一プロブレムの発生理由として、「家庭におけるしつけが十分でない」が筆頭にあげられており、「児童に自分をコントロールする力が身に付いていない」と「児童の自己中心的傾向が強いこと」を合わせた三つが主要なものとされている。
■先生が子どもを叱れなくなっている
そうした問題への対応として、授業を子どもにとってもっと楽しいものに工夫する試みが奨励される風潮があるが、そのような場当たり的な対応でやり過ごすと、子どもたちが将来生きづらさに苦しむことになりかねない。
自分の衝動をコントロールできない。感情をコントロールできない。自制できない。自己中心性から脱却できない。相手の立場や気持ちを想像できない。コミュニケーションがうまくいかない。そうした子どもの側の要因を無視して、授業を楽しくしたり、ほめて気持ちよくさせてあげるなど先生の対応をよりやさしくしたりしても、子どもの自己コントロール力の向上にはつながらない。
かつては子どもの自己コントロール力を鍛えるのを学校の先生に期待することができたが、今ではそれはまったく期待できない。先生がちょっとでも厳しいことを言うと、子どもの心を傷つけたといって、保護者からクレームがついたり、マスメディアが問題視したりしかねないため、学校の先生たちは萎縮しており、子どもたちを鍛えるという教育的働きかけをしにくい時代になっている。
■自制できる生徒は対応できるが…
大学の授業に出ている学生たちに聞いても、これまで学校で先生から叱られたことなどほとんどないし、周囲の友だちが叱られるのを見たこともほとんどないという。中学や高校の頃、生徒が悪いことをしても、先生は叱るという感じではなく、「そういうことはしない方がいいよ」といった感じでやさしく「お話をする」のだという。
このように先生たちは、生徒に望ましくない態度や行動がみられても、厳しく指導することができず、やんわり伝えて本人の自覚を促すくらいしかできないのである。先生のやんわりした指摘をもとに自分の問題点に気づき、自ら態度や行動を修正していくことができる児童・生徒はよいが、そもそも自己コントロール力が未発達な場合はなかなかうまくいかない。
アルバイト先で遅刻して店長から叱られて、逆ギレして辞めた友だちがいるという学生たちが結構いるのだが、彼らによれば、これまで遅刻しても叱られることがなかったから、「なんでそんなきつい言い方されなきゃいけないんだ!」とムカついて、我慢できなくなるのだろうという。
■クレーマー保護者がいるため厳しくできない
学校の先生たちと話しても、モンスターペアレント、いわゆるクレーマーのような保護者がいて、叱ったり厳しいことを言ったりすると文句が出るため、厳しい指導はしにくいという。
規則違反を繰り返したり、授業中にいくら注意しても騒ぐのをやめない生徒を怒鳴って叱ると、「親でも怒鳴ったことがないのに、先生が怒鳴るなんて。ウチの子は先生が怖いから学校に行きたくないって言ってるんです。ほめて育てる時代になんてことをしてくれたんですか」などといったクレームが来るため、自己コントロール力を鍛えるのが非常に難しくなっているという。
ある自治体の校長先生たちの集まりで教育問題についての話をした際に、アンケートをとらせてもらったのだが、その結果には、叱ったり厳しい指導をしたりしにくくなっている現状が如実にあらわれていた。
「以前と比べて生徒を叱ることが少なくなった」肯定61.3%、否定20.4%
「生徒をほめなければならないといった空気が強まっているのを感じる」肯定77.3%、否定4.5%
「生徒を厳しく指導するということがやりにくくなっている」肯定86.4%、否定11.3%
「生徒を叱るべきときでも叱りにくくなっている」肯定54.5%、否定22.7%
■傷つきやすい生徒が増えている
こうした風潮により、自己コントロール力が鍛えられない子どもたちには、傷つきやすい、心が折れやすい、忍耐力が乏しいといった心理傾向がみられやすいと推測されるが、つぎのようなデータをみると、実際にほとんどすべての校長先生がそのような印象を抱いていることがわかる。
「ほめられないと拗ねる生徒が増えていると感じる」肯定50%、否定15.9%
「傷つきやすい生徒が増えていると感じる」肯定88.7%、否定0%
「心が折れやすい生徒が増えていると感じる」肯定84.1%、否定2.3%
「生徒の忍耐力が低下しているのを感じる」肯定95.5%、否定0%
さらに、生徒の保護者に関するつぎのようなデータをみると、ほとんどすべての校長先生が、子どもに甘く、心を鍛えるということに目が向いていない保護者が多いと感じていることがわかる。
「心を鍛えるという面に価値を置かない保護者が多いように思う」肯定79.6%、否定0%
■「子どもに我慢させる」という発想が乏しい
いくらちゃんと宿題をしたり授業をまじめに聴いたりしていても、非認知能力がしっかり身についていないと、何かで行き詰まったときに粘ることができなかったり、思い通りにならないときに我慢できなかったり、苦しい状況に耐えられずに心が折れてしまったりと、将来困ることになりかねない。
たとえば、注意や叱責(しっせき)を自分の成長の糧にする気持ちの余裕がなく、ただ傷ついてしまう。叱られたり、よくない点を指摘されたりすると、そこを反省して直そうという思いよりも、不快感の方が強く、反発したくなる。あるいは、傷つきに耐えられず、その場から逃げ出す。これではなかなか成長することができない。
親が子どもにどのようなことを期待するかを調べた国際比較調査がある。それをみると、「親の言うことを素直にきく」ことを子どもに強く期待する親は、フランスで80.1%、アメリカで75.2%と8割近い比率なのに対して、日本では29.6%と著しく低い。欧米の親は子どもは親の言うことをきくものだと思っているのに対して、日本の親はそのように思う親は少数派にすぎない。子どもに我慢させるという発想が乏しいのである。
■多くの人が「子どもを尊重する親」を目指している
「学校でよい成績をとる」ことをどれだけ期待するかという問いについても、「強く期待する」という親は、フランスで70.1%、アメリカで72.7%なのに対して、日本では11.9%と、これまた著しく低い。
欧米の親は子どもに強く命じたり強い期待を示したりするのに対して、日本の親には子どもに無理強いするのはよくない、子どもの自由にさせてあげたいといった思いがあるようだ。それが子どものためと思っているのかもしれないが、実際は子どもを将来苦しめることになりかねない。なぜなら厳しい状況に耐えたり、長期的な目標のために目の前の欲求を我慢したりできるように、自分の気持ちをコントロールする力が鍛えられないからだ。
今の20代の若者がしつけを受け始めた2001年度に行われた意識調査の結果をみると、「どういう親でありたいか」という問いに対する回答で、最も比率が高かったのは「何でも話し合える友だちのような母親」で83.2%、2位が「できるだけ子どもの自由を尊重する父親」で82.8%、3位が「できるだけ子どもの自由を尊重する母親」で79.2%となっている。
ほとんどの親が子どもの自由を尊重する親でありたいとしており、そこには子どもが社会の荒波を乗り越えていけるように鍛え上げてやらなければといった思いがまったくみられない。
■フランスはしつけが厳しいことが自慢
それに対して欧米の親は、子どもに対して強大な権力者として君臨し、子どもの心を強く鍛えようという強い意思をもっているように思われる。
たとえば、フランス人の子育てを紹介している『フランスの子どもは夜泣きをしない』(集英社)によれば、フランスの親にとってはしつけが厳しいことが自慢であり、親は子どもに対して絶対的な権力者でなければならないと考えているという。そして、自己コントロールができる子に育てようとしていることが、つぎのような記述から窺える。
「フランス人の親は、子どもにフラストレーションを与えるダメージを心配しない。反対に、フラストレーションに対処できなければ、子どもがダメージをこうむると考えている。フラストレーションに耐えることを、人生の核となるスキルだと見なしているのだ」
「フランス人の専門家や親は、子どもは『ノー』の言葉を聞くことで、自分の欲望という暴君から救われると考えている」
このように厳しく育てられることで、世の中は自分中心に動いているのではないことを体得し、欲求不満にも耐えられるようになり、思い通りにならない現実をしぶとく生きることができるようになると考えられる。
■ほめるだけでは子どもは育たない
マシュマロ・テストを思い出してほしい。先のことを考えて目の前のお菓子をすぐに食べるのを我慢することができるかどうかを試すものだが、非認知能力が育っているかどうかをみるためのものである。
子どもの心を傷つけないように、いい気分にさせてあげられるようにと、子どもを甘やかし、ほしいものを何でもすぐに与えてしまうようでは、欲求不満に耐える力は身につかず、思い通りにならないとキレたり心が折れたりしやすくなる。
アメリカの教育家ノルトによる『子どもが育つ魔法の言葉』(石井千春訳、PHP文庫)は、日本ではほめて育てることを説くものとみなされている。だが、よく読むと、ほめて育てるというよりも、言葉でほめることをしながらも、愛情をもって厳しくしつけることを説いている。
たとえば、子どもがだれかを傷つけたり、わざと物を壊したりしたときは、「まず『そんなことになると分かっていたら、許さなかった』と、子どもにきっぱり言うべきなのです。そして、なぜそんなことになったのかを考えさせ、自分の行為を恥じさせ、反省させなくてはなりません。ときには、同じ失敗を繰り返さないように罰を与えることも必要でしょう」とアドバイスしている。
また、ルールや約束事を例外なく守らせるという欧米流の子育ての基本も説かれ、「家庭内でルールを守らせるということは、子どもが社会の一員として生きてゆく上で、とても大切なことです」、「いちばん大切なことは、親の同情を引けばわがままをとおせるのだと子どもに思わせないように注意することです」というように、子どもに歩み寄りがちな日本の親とは正反対の姿勢を推奨している。
■親も先生も役割を放棄してしまった
かつては日本でも、子どもの将来のために、厳しい社会の荒波を乗り越えていけるように、そしてどんな状況の中でも力強く自分の道を切り開いていけるように、あえて心を鬼にして厳しく育てるということが行われていた。だが、今では「ほめて育てる」「叱らない子育て」が広まり、自己コントロール力を鍛えてくれる親は圧倒的な少数派になってしまった。その結果、子どもたちの自己コントロール力の未発達がさまざまな問題を引き起こすこととなったのである。
先生も親もやさしくなったというと良いことのように思うかもしれないが、視点を変えると、将来困らないように子どもたちの心を鍛えるという役割を果たしてくれないということでもある。
学校の先生や親が自己コントロール力の発達を促すような働きかけをしてくれないのであれば、自分自身で意識して自己コントロール力を鍛えるしかない。
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心理学博士
1955年東京生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て、現在、MP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。おもな著書に『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)、『「やりたい仕事」病』(日経プレミアシリーズ)、『「おもてなし」という残酷社会』『自己実現という罠』『教育現場は困ってる』『思考停止という病理』(以上、平凡社新書)など著書多数。
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(出典 news.nicovideo.jp)
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